梟録

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松田芳和のブログです。一般企業に勤務しながら、名古屋大学大学院博士課程に在籍しています。専門分野は国際環境法と国際宇宙法。特にスペース・デブリの問題を研究テーマにしています。国際政治や歴史、防災、社会福祉にも関心あり。このブログでは、さまざまなテーマについて述べていきますが、最終的な結論を提示するものではなく、あくまでも序論的な考察となります。忌憚のない指摘を受けて、それを研究に活かしたいと考えています。

日本のプラスチックごみ対策の「自己矛盾」

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首相官邸で開かれた海洋プラスチックごみ対策の関係閣僚会議(産経新聞2019年5月31日)


 プラスチックごみの海洋への影響が深刻化するなか、日本政府は5月31日に「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」[1]を打ち出した。これは、安倍首相が今年のダボス会議通常国会の施政方針演説で表明した「新たな汚染を生み出さない世界の実現」を目指した具体的な取り組みをまとめたものである。

 このアクションプランでは、これまでの廃棄物処理におけるプラスチックごみの回収・適正処理の徹底や、海洋に流出してしまったプラスチックごみをも回収すること、海洋流出しても影響の少ない素材(海洋生分解性プラスチック、紙等)の開発等に取り組むことを強調している。

 しかし、「流出して悪影響のあるプラスチック(悪性プラ)ごみの回収」という取り組みと、「流出しても悪影響の少ないプラスチック(良性プラ)の開発」という取り組みは矛盾しているように思う。良性プラを開発するのであれば、いずれ海洋中における回収作業をする必要がなくなるからである。

 海洋中にあるプラごみを完全に回収することは果てしない挑戦であるが、その量的な低減への取り組みは地道に進めていくべきである。しかし、このような政府の対策を進めていくと、いずれは海洋中に悪性プラごみと良性プラごみが入り混じることになる。良性プラごみは、いずれ分解されて自然になくなることが想定されているが、ある一定期間は海洋中に存在することになるからである。

 すなわち、実際、海洋での回収処理の作業において、悪性プラごみと良性プラごみをどのように区別し得るのか、良性プラごみは基本的に海洋にリリースしてもよいという考えなので、区別せずに全部回収しようとするのであれば、良性プラを開発する意味がなくなる。また、区別の作業をしようとすると、それは追加的なコストになるといえるだろう。

 政府の打ち出したアクションプランには、このような「自己矛盾」の問題が潜んでいるように思う。今後、これらの取り組みは具体的にどのようなものであるかを明らかにし、実際にそのような「自己矛盾」に陥ってしまうのか、あるいはそうならないように調整をどのように図っていけばよいかを検討することが必要になると思われる。

 

[1] 環境省「「海洋プラスチックごみ対策アクションプラン」の策定について」 https://www.env.go.jp/press/106865.html